最高裁判所大法廷 昭和38年(オ)1294号 判決 1965年6月30日
上告人
山田真太郎
右訴訟代理人
高橋正蔵
村本勝
被上告人
森よ禰子
主文
原判決を破棄する。
本件を名古屋高等裁判所に差し戻す。
理由
上告代理人高橋正蔵、同村本勝の上告理由について。
所論は、要するに、本件保証契約の趣旨に関する原審の判断には、法令又は経験則に反した違法があるというにある。
売買契約の解除のように遡及効を生ずる場合には、その契約の解除による原状回復義務は本来の債務が契約解除によつて消滅した結果生ずる別個独立の債務であつて、本来の債務に従たるものでもないないから、右契約当事者のための保証人は、特約のないかぎり、これが履行の責に任ずべきではないとする判例(大審院大正六年(オ)第七八九号、同年一〇月二七日判決、民録二二輯一八六七頁、なお、同明治三六年(オ)第一七〇号、同年四月二三日判決、民録九輯四八四頁等参照)があることは、原判決の引用する第一審判決の示すとおりである。しかしながら、特定物の売買における売主のための保証においては、通常、その契約から直接に生ずる売主の債務につき保証人が自ら履行の責に任ずるというよりも、むしろ、売主の債務不履行に基因して売主が買主に対し負担することあるべき債務につき責に任ずる趣旨でなされるものと解するのが相当であるから、保証人は、債務不履行により売主が買主に対し負担する損害賠償義務についてはもちろん、特に反対の意思表示のないかぎり、売主の債務不履行により契約が解除された場合における原状回復義務についても保証の責に任ずるものと認めるのを相当とする。したがつて、前示判例は、右の趣旨においてこれを変更すべきものと認める。
原審の確定するところによれば、上告人は昭和三一年七月二日遠藤民弥からその住宅内に存在する本件畳建具を買いうけて代金一五万円を同人に交付し、被上告人は遠藤の上告人に対する右債務につき保証したところ、右契約は遠藤の債務不履行を理由に解除されたというのである。前段説示したところに照せば、被上告人は、前記保証に際し、右売買契約の解除による原状回復義務について保証しない旨の特約がなされた事実が明らかにされないかぎり、遠藤の上告人に対する右代金返還の義務につき保証の責に任ずべきものと認むべきところ、原審が、右特約の有無に考慮を払うことなく、前示判例の趣旨にしたがい被上告人に保証の責なしと速断したことは、本件保証契約の趣旨に関しその判断を誤つた結果審理不尽に陥つた違法があるばかりでなく、記録によれば、被上告人は原審においてて右遠藤の債務は和解契約により既に消滅し、したがつて被上告人の債務も消滅した旨抗弁していることが明らかであるから、この点についても更に審理を尽させるため、本件原裁判所に差し戻すのを相当と認める。
よつて、民訴法四〇七条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(横田喜三郎 入江俊郎 奥野健一 石坂修一 山田作之助 五鬼上堅磐 横田正俊 草鹿浅之介 長部謹吾 城戸芳彦 石田和外 柏原語六 田中二郎 松田二郎 岩田誠)